社外取締役・監査役対談

  • 2024年末の改修終了は
    施工不備問題解決の始まりであり、
    その真価は請負再開時点に
    試されます

    社外取締役
    中村 裕

  • 施工不備問題をきっかけとして、
    社風、コンプライアンス、
    ガバナンスなどで
    幅広く改革が進みつつあります

    社外常勤監査役
    吉野 二良

施工不備問題の背景とレオパレス21が解決すべき問題の本質

吉野:今回、統合レポートを読まれる方に、現在のレオパレス21がどのように改革に取り組んでいるのか、その改革がなぜ必要だったのかを知ってもらうには、少し古い話からする必要がありそうです。その話をするのは、以前から当社との付き合いがあり、社外ながらも常勤監査役を務めている私がふさわしいと思うのでお話しさせていただきます。

レオパレス21という会社は、創業者のそれこそアイデア一つで急速に拡大してきた会社であり、その後、バブル崩壊、リーマンショックなどの危機によって、独立系のマンションデベロッパー、住宅メーカーが破綻するなか、自助努力によって、銀行の債務免除などを受けることもなく、それを乗り越えることができました。そのことは今でも十分に評価されてもよいと思います。その際の復活のカギは、営業第一主義のもとでの圧倒的なスピードにあったと考えています。経営悪化を食い止めるには、なによりもスピードが要求されます。当社の創業者を頂点にした縦型組織、上意下達の社風は、そういうスピードが要求される局面には合っていた、とさえいえるかもしれません。

しかしながら、そういうスピード重視の姿勢は何か問題があったときに立ち止まって考える姿勢を失わせますし、過去の成功は時に自分に対する過信につながってしまいます。今回の施工不備の問題は、不備そのものを解決して済むのではありません。その背景にある社風の問題、コンプライアンスに対する姿勢の問題、ガバナンスの問題など、会社にとって本質にかかわる重要な問題を解決する必要があるはずです。

中村:私は、施工不備問題が発覚し、その対応が始まった後に社外取締役に就任しましたので、発覚当時のことは詳しく分かりませんが、外からレオパレス21の対応をみて、「これはまずいな」と正直思いました。

当時私は、住宅メーカーに勤務すると同時に、プレハブ住宅の業界団体であるプレハブ建築協会でCS品質委員会委員長を務めており、2005年に建物の構造計算書を偽造した、建築基準法上問題のあるマンションが見つかった際に、住宅を含めた建築業界では、建物の構造に関する問題が今後、ほかの会社にも広がるとの懸念からどの会社でも総点検のようなことをやっていましたが、どうやらレオパレス21ではそういうことをした様子がなかったからです。

正直、この問題はきっと大きくなると直感しましたが、実際にその通りになりました。その後内部に入って気づいたのは、やはり、創業者の存在が大きすぎること、営業第一主義で技術をおろそかにしがちであったこと、そして、他社との情報の交換がなく、問題が発生したときに、それが重大な問題なのか判断できないことなどです。現在取り組んでいる改革は、それらの過去のレオパレス21の負の側面を一掃し、施工不備の解決にとどまらず、抜本的に会社を変える取り組みだと認識しています。

吉野:施工不備の解決に関する進捗状況については報告を受けており、今年中には終了のめどがたっています。これからは、施工不備問題の背景にあった会社の課題について、成果を上げ、「レオパレス21という会社は変わった」と感じてもらう局面に移っていくと思います。

施工不備問題が解決したかは、請負再開によってはじめて証明される

中村:施工不備問題では"明らかな不備"の改修工事の終了は2024年末をめどにしていますが、実際に問題のあった案件を工事すればそれで終わりというわけではないと個人的には思っています。むしろ、真価が問われるのは、近い将来におとずれるアパート建築を行う請負事業を再開した時点だと思っています。その時の工事で問題を起こさないことはもちろんのこと、建築した建物が問題なく何年も維持されていくことによって、はじめてレオパレス21は、施工不備問題を乗り越えたといえるのではないでしょうか。

不備がないように備えるという一方で、私の住宅メーカーでの長い経験からいうと、備えすぎ問題も抱えていると懸念しています。再発防止策にあげられたチェック体制は、いわゆるあるべき論で固められており、実際に全部を取り組むと、業界の常識ではやりすぎとさえいえるものになっています。それでは、今後、競争環境の中で請負事業を展開していくのは難しいでしょう。今後は、本当に必要なものとなくてもよいものを外部の目線に耐えうる基準でしっかり仕分けしながら、必要なものだけを残すことで、安全性と経済合理性を両立させていくことが大事です。請負再開の最初の案件はそのための肝、本当に必要なものとは何かを判断する試金石になると考えています。

  • 品質管理の徹底と企業としての競争力とのバランスを今後模索していくべきです

問題の根幹であるコンプライアンス改革は、具体的レベルに落とし込み丁寧に推進

吉野:施工不備問題の背景にあるとされたコンプライアンス改革の出発点は、2019年5月29日、西村あさひ法律事務所の弁護士による外部調査委員会の報告書に、施工不備の再発防止策として、企業風土の抜本的改革と、コンプライアンス・リスク管理体制の再構築が指摘された日にさかのぼります。それまでの会社の組織においても、リスク管理委員会やコンプライアンス委員会は存在していましたが、実質的には機能しておらず、その体制を再構築すべしという指摘になっており、企業風土の抜本的改革や建築請負事業の体制見直しと合わせた三つを柱にした50項目の見直しを進め、その見直しは一応終了しました。

この見直しは相当細かい点まで踏み込んだ内容となっています。一例をあげると、建築した物件の検査を行う部門がそれまで事業部の中にあり、いってみれば、アクセルとブレーキを踏む人間が同じであるという状況から、検査はコンプライアンス部門に移すことで、それらを分けることになりました。このようなコンプライアンス強化のためになら必要と思われる見直しを一つ一つ丁寧に進めることで、コンプライアンス、リスク管理重視の姿勢が浸透しつつあると思いますし、体制は大きく変わりつつあるなと感じています。

再発防止のためには仕組みを変えるだけでなく、本気で社風改革に挑む

中村:コンプライアンス改革によって、現状の当社は仕組みとして、施工不備のような問題が起きにくい体制になっていると思います。ただし、どんな組織や仕組みもそれを運用する人次第ということも言えます。そのためには、社風を変えることも仕組みを変えることと同じくらい重要です。当社の変えるべき社風といえば、過去に良しとされてきた、縦割り組織特有の周りのことは我関せずといった姿勢、営業第一主義、上からの命令は絶対服従というようなことかと思います。

これまで、内部通報制度の導入によって、おかしなことはおかしいと言える仕組みを構築するなど、誰もがものを言いやすい社風への改革に取り組んできました。実際に若い社員の言動をみていると、今までは上の言う通りやっていればいいと考えていたのが、明らかにそれではだめであり、それぞれの立場で考えながら走る、いわゆる自走が必要だと考え、実践する人が増えてきていると感じます。昔流の社風が一掃されたとはいえませんが、着実に変わりつつあるのは確かだと思います。

  • コンプライアンス改革では、細かい点にまで踏み込んだ取り組みを進めています

ガバナンス改革の取り組みと今後への期待

吉野:変えるべきとされたポイントのうち、ガバナンス改革の取り組みについてもお話ししたいと思います。私は、2017年6月に社外監査役に就任していますので、施工不備問題発覚前後で経営陣が一新された前と後の状況を見ています。その立場からいうと、新体制になって、取締役会がそれまでの単なる報告会から、本当に議論をできる場に変わったと感じています。そうなることで、一つ一つの議案に関して、その内容を精査し、場合によっては条件付きで承認といって差し戻すようなケースも見受けられます。社外取締役のチェックがきちんと入ることで、ガバナンスで大事な経営の透明化は確実に進んでいると思います。

中村:取締役会では、業務執行取締役(社内取締役)は、案件の報告・説明が主で、非業務執行取締役いわゆる社外取締役が発言すると、それに従うという傾向が散見されています。会社の正しい発展に寄与すると判断して上程した議案については、通すために積極的に発言し、説得していくことが必要です。そういう意味では、ガバナンス改革のためには、業務執行取締役の方々には、さらなる自走・自律を期待したいところです。

吉野:社風の改革によって社員が自分で考え、判断する力を上げることを目指していますが、確かに、執行に携わるメンバーについても同じことが必要ですね。

持続的に社会に価値を提供するために

中村:現在取り組んでいるように様々な解決すべき課題はありますが、レオパレス21という会社がもつ単身者向けの賃貸住宅供給は、社会的に価値が高いものだと思いますし、十分に競争優位性があるものだと思います。今後のテーマは、社会の変化と要請に応じつつ、自分たちのビジネスをどう変えていけるかだと思います。その一つとして、より社会のニーズを取り込みやすい仕組み、例えば、より地域に根差した経営体制(エリア支社制)等への移行も可能性の一つにあるかもしれません。

そのような形を変えていくときに必要なのは、最初に情報を収集する最前線の社員が、自分で考え、判断できるという自走力を付けることです。施工不備問題に始まった社風、コンプライアンス、ガバナンスの改革は、そういう意味で不備を解決するためだけでなく、未来のレオパレス21を描くための社員の人的資本強化につながっていくと信じています。