存続をかけた改革と
信頼回復への手応え

企業というものは常に外的環境に応じた変革を求められます。それに加えて、施工不備問題で自社の存続を揺るがす事態を招いた当社の場合は、社内の組織や業務のあり方など、すべてにおける変革に向き合う必要がありました。2020年6月に構造改革の実施を発表して以来、当社は事業戦略の見直しとともに、企業価値の向上に向けた抜本的な体質改善に取り組んできました。

社会的信用を回復する上では、私たちが犯した過ちにしっかり向き合い、着実に前進していくしかありません。この点については、私は手ごたえを感じています。それを社会に認めていただいたからこそ、金融機関からの借入が可能になりリファイナンスを実行できたことをはじめ、さまざまな新しい動きが可能となったと考えています。

負のスパイラルを断ち切り、
未来を切り開いていく。
そこには社員自らが考え
行動することが重要です。
存続を懸けた改革と信頼回復への手応え

「社員が主役」の会社を
目指して

強いリーダーシップを持つ創業者によって築かれた当社では長年、トップダウン式で本社主導の経営が行われており、社員が自ら考えて行動する風土が育まれていませんでした。そのような組織のあり方が、施工不備問題の一つの原因となったと考えています。

全国に物件があり、入居者様やオーナー様、清掃業者などの取引先も各地域に存在している当社の事業は、本社内ですべて完結するものではありません。だからこそ、現場の判断や地域性を尊重することが重要だと考えています。そのため私は、トップダウン式のスタイルに、入社以来ずっと違和感を抱いていました。また、私自身も「剛腕のリーダー」として組織を牽引するタイプではないため、私は当社を、社員が自ら考え行動する、ボトムアップ型の会社にしていくことを決意したのです。当社は現在、「社員が主役」の会社を目指す姿に掲げて変革に取り組んでいます。

この「社員が主役」の会社というコンセプトは、社員から経営提案を募集した際に、あるチームから出された提案の一つです。上層部が決めたことをただ実行するのではなく、自らが企業の方向性を考え、実行する。そうした企業文化への転換を求めるコンセプトは私自身の考えとも重なり、これを新生レオパレス21に向けての改革を進める軸と定めました。

再生に向けたリブランディングを目指し、この理念の具体化のために行ったのが、社員主導でのMVVC(ミッション、ビジョン、バリュー、クレド)の策定です。「社員が主役」の会社のコンセプトを提案したチームが事務局となり、挙手制で参加希望者を募って、応募してきた社員の中から部門や年齢、役職などの異なる11名を選んで議論を重ねました。ここでは役員は一切関与せず、社員自らで理念をかたちにしていきました。現場の代表者たちが議論を重ね、その結果を各部署に持ち帰って報告するという、間接民主主義そのもののようなプロセス自体が、社員が経営に参画する経験として意義深いものだったと考えています。

このボトムアップ型のプロジェクトにより、「新しい価値の創造と笑顔あふれる暮らしの想造」というミッション、「"住"自在に、人・企業・地域をつなぎ、あらゆる人の人生を輝かせる『ひとり暮らし』の未来をデザインする」というビジョンなどが完成しました。今後はこの理念を浸透させ、社員全員がこの価値観を理解し、自分の行動に結びつけていくことが重要であると考えています。

現場との対話を改革の起点に

「社員が主役」の会社を目指した背景には、もう一つ、施工不備問題によって社員たちが自信を失い、レオパレス21にいることに誇りを持てなくなっていたこともありました。このような状況で業績が好転するはずがありません。その負のスパイラルを断ち切り、未来を切り開いていく原動力は、やはり社員しかないと考えました。

社員と直接顔を合わせて対話するため、全国の事業所を役員が直接訪問する「タウンミーティング」も行いました。決算内容や経営方針の説明、業務の進捗や成果などの情報共有が中心でしたが、事業部ごとの方針が着実に実行され、成果が出ているという実感は、社員の自信回復に大きくつながったと考えています。社員からは社内制度への要望や、本社から目の届かない現場の課題について率直な意見が聞かれました。これらが制度の見直しや、実効性のある対策につながった例が多々あります。

構造改革の推進状況

当社が掲げるブランドメッセージ「はじまりの部屋を、ひとは一生おぼえている。」には、新たな一歩としてひとり暮らしを始めるときに、誰もが抱く期待と不安の入り混じった思いを表現しています。このような思いこそが社会を支える原動力です。そして、全国で54万戸超の部屋を管理し、その「はじまりの場」を提供している当社は、まさに社会インフラの一つであると認識しています。

2019年の厳しい時期に社長就任発表をした際に、「当社は社会インフラを担う企業だという自覚がある。そこでもう一度社会に必要とされる企業として再出発したい」と述べました。この思いは、今も変わることはありません。カバン一つですぐに生活を始められる家具・家電付きの部屋を提供する当社は、やはり社会に必要なインフラの一つと言っても過言ではないのです。

施工不備問題に対しても、そのような自覚をもって真摯に向き合い、信頼の回復に努めてきました。2020年に発表した構造改革では、まずは中核事業である賃貸事業の立て直しに注力することにしました。当初は入居率も激減し、赤字にも陥りましたが、2025年3月期には賃貸事業の営業利益を350億円以上に回復させることができました。課題がすべて解消しているわけではありませんが、業績は順調に回復しつつあります。

一方、施工不備問題の対応に注力するため、新規物件の提供や、築年数の経過した物件のリニューアルといった開発事業はほぼ休止し、大きな柱の一つを失った状態が続きました。ようやく2026年3月期から本格的に開発事業を再開し、真の総合賃貸管理業へ一歩を踏み出します。

シルバー事業は現時点では黒字化できず、運営改革を進めています。その他事業のレオパレスリゾートグアムについては、譲渡・撤退方針を実現する上でも運営収支の改善を進めます。

2025年3月期を振り返って

2025年3月期の当社の売上高は4,318億円、営業利益は292億円となり、このうち賃貸事業が売上の約96%を占めています。入居率は前年より若干下がっていますが、プライシング戦略により家賃単価が上昇したため、売上高は前年比102%となりました。

デフレが続いた日本では家賃据え置きが続いており、高騰する海外主要都市の家賃に比べて低額であることから、海外投資家からは賃料値上げの必要性を指摘されます。しかし、家賃を上げると入居率は確実に下がるため、バランスを考慮しない安易な値上げは避けるべきだと考えています。その中で当社はニーズに合わせた適切な価格設定を行うプライシング戦略をとり、個人利用ほど価格優先度が高くない企業利用の拡大に注力してきました。トップラインの上昇は、これが奏功したといえます。

外国籍人材への住まいの提供も、収益力回復の原動力の一つとなりました。人口減少が進み労働力が不足する日本では、労働力の確保を外国人労働者に頼らざるを得ません。それにもかかわらず、日本ではいまだ外国人が部屋の賃借を断られることが多く、企業のリクルーティングの努力が報われにくい状況があります。このような状況に対し、アパートのオーナー様と一括借上げ契約を締結し、貸主として賃借人を決めることができる当社は、家賃延滞などの責任もすべて負うかたちで外国籍人材に部屋を提供できます。現在、当社の利用戸数全体の11%にあたる約5万人が外国籍のお客様であり、拡大の余地は大いにあると考えています。

そこで外国籍人材への住まい提供に関して、大阪府、熊本県、高知県などと協力関係をスタートしました。今後も住まいの提供を通じて、労働力不足などの地域の課題解消に協力し、多様な人々が安心して暮らせる社会の実現に貢献していきます。

中期経営計画における事業戦略

中期経営計画においては、法人利用を中心に賃貸事業の入居率をさらに高め、収益性を向上させていく方針です。企業の人的資本戦略のサポートを軸に社宅戦略のブレーンとしての地位を確立し、法人利用のシェアを2025年3月期の64.6%から2030年3月期には70%にまで引き上げることを目指します。

入居者数の回復が遅れている個人利用については、学生に再び注力していく方針です。家具・家電付きの当社の物件は、ひとり暮らしを始める学生のニーズに適していますので、大学生協等との提携を進めるなどして、個人利用の立て直しを図っていきます。

今後、単身世帯は確実に増加していきますが、アパートの供給は過剰であり、全体の空室が減ることは見込めません。この中で求められるのはサービスの質です。現在は、従来の「家具・家電付き」「インターネット環境標準装備」に加え、スマートロックやオンライン契約など入居者様の利便性を高めるサービスの提供も進めています。

開発事業の再開については、一定の管理戸数の維持と平均築年数の若返りを図り、収益力強化につなげていきます。開発の中心となるのは、オーナー様が20~30年前に建築し、当社が借り上げて管理運営をしてきた既存アパートの建替えです。オーナー様にとって建替えは一つの冒険であり、当然、それを不要とするオーナー様もいらっしゃいます。しかし、当社は建替えを一つのソリューションとしてご提案しています。当社を信頼してくださり、共にアパートを経営してきたオーナー様に報いることが私たちの役割であり、オーナー様には、開発事業本部長でもある私からもご説明する機会を設ける予定です。

資本コストを意識した経営

当社は中長期的な企業価値の向上に向けて、資本コストや株価を意識した経営に取り組んでいます。持続的な成長と企業価値の向上を実現し、ステークホルダーの皆様の期待に応えていくため、経営資源の最適な配分と資本効率の改善を重視しながら事業構造を変革しています。

企業価値の向上を図る上では、ROIC、WACC、PBRなどの経営指標を経営判断に活用しています。当社のWACCは約5.0%と認識していますが、2024年3月期以降は業績が安定フェーズに入り、ROICはWACCを大きく上回る水準で推移しています。中期経営計画においても引き続き、効率的かつ戦略的な成長投資を通じて企業価値の最大化を図っていきます。

PBRについては、ROEとPERに分解し、各指標を向上させるファクターを整理することで、効率的な企業価値の向上を図っています。企業価値の向上を図る上では、EBITDAの増加、自己資本の最適化、期待成長率の向上、株主資本コストの低減というテーマのもと、ROEおよびPERを向上させる施策を推進しています。

株主還元については、中期経営計画の最終年度で配当性向30%を目標としています。中期経営計画の発表後に自社株TOBを実施したため、再検討が必要であると考えていますが、最終的には30%を目指したいと考えています。

自己株式TOBに至った背景

当社は2020年11月にフォートレス・インベストメント・グループより資金調達を行いました。普通株式の第三者割当増資をはじめ、300億円の借入および新株予約権の発行など、複数の手段を活用しましたが、これらのうち、借入金と新株予約権には2025年11月2日の期限が設けられており、同日までに借入金の返済および新株予約権の行使が必要となっていました。

借入金については、2025年3月にみずほ銀行からのリファイナンスによって担保付きから無担保への借換えを実現し、財務体質の健全化を進めました。新株予約権については、投資家による期限内での行使がほぼ確実に想定され、行使された場合は、発行済株式数の約1.5倍に相当する約1億6,000万株が増加するため、株式の希薄化(ダイリューション)が発生し、株価は理論上で25%程度下落する可能性がありました。

その対応策として、新株予約権の精算および回避のために、自己株式の公開買付け(TOB)を実施するに至りました。これにより、資本構成の安定化と株主価値の保全を両立させることができました。

エリア支社制への移行と人的資本経営

現在、地域ごとに異なるマーケット環境やお客様のニーズに柔軟に対応するために、「エリア支社制」への移行準備を進めています。各エリアが責任と権限を持つことで、よりお客様に寄り添った価値提供ができるようになると考えています。エリア支社制のもとで会社を成長させるには、やはり社員一人ひとりが「社員が主役」という自覚を持ち、各地域で経営者目線をもって事業に取り組むことが重要です。自らの行動により収益力が変わるという実感を得られるよう、トライアルアンドエラーを重ねながら、経営者マインドをレベルアップさせていくことが今後の課題です。

そのため、人的資本経営の一環として、教育・研修体制にも注力していきます。以前から実施してきた営業研修に加え、経営者的視点を育むプログラムやチームビルディングに関するプログラムなどを導入していきます。

サステナビリティ戦略

当社は、企業価値の源泉は「経済価値」と「社会価値」の両立にあると捉え、その実現に向けて、環境、社会、ガバナンス(ESG)を統合したサステナビリティ経営を推進しています。

環境に対する
取り組み
レオパレスグリーンエネルギー株式会社を中心に、CO2排出量実質ゼロの特徴を活かして管理物件におけるCO2排出削減に取り組んでおり、2030年度までにスコープ1・2の温室効果ガス排出量を、2016年度比で46%削減することを目指しています。
中でもガス供給については、従来のプロパンガス事業者による料金設定に不透明な点があり、入居者様の負担や利便性に課題があったことから、大手ガス会社と連携して新たなガス供給会社を設立しました。これにより、入居者様の負担低減を進めていきます。
社会・ガバナンスに
対する取り組み
人材こそが競争力の源泉であるという考えのもと、人的資本への投資を加速し、多様な人材の獲得や働き方改革、ウェルビーイング経営の推進などに取り組んでいます。
ガバナンスもサステナビリティ経営の基盤であり、ステークホルダーとの対話、コーポレート・ガバナンスの実効性確保、コンプライアンス強化に取り組んでいます。
DXの推進
内見や契約のオンライン化、スマートロックの導入などで入居者様のご来店を不要とすることで、入居者様の利便性を高めると同時に、当社の店舗運営コストの削減や、人員配置の最適化にもつながっています。また、アパート管理業務における24時間365日の電話対応の一部をチャットボットに置き換えるなど、社内業務の効率化・自動化にも積極的に取り組んでいます。

最後に

新生レオパレス21を牽引するにあたり、いま一度、皆様からの信頼を得て、成長を続けていく会社にしていきたいと思っております。今後も社会インフラの一つであるという自覚をもち、社員一人ひとりの力を結集し、住まいの提供によって人・企業・地域をつないで新たな価値を創造していけるよう、誠実に歩みを進めてまいります。これまで再生の歩みを支えてくださったステークホルダーの皆様におかれましては、今後とも変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。

社会インフラを担う企業として、
人・企業・地域をつなぎ、
誠実に新たな価値創造を
実現していきます。
存続を懸けた改革と信頼回復への手応え