2025年3月期を振り返って

2025年3月期は業績をはじめ、施工不備問題への対応など計画通りに進めることができた1年間でした。しかしそれ以上に、当社の企業改革に対して社会から一定の評価をいただく事象があったという点で、後に振り返ったときに「2025年3月期が重要な転換点」といえる1年になったと思います。

まず、監査法人をEY新日本有限責任監査法人へと変更しました。同法人の厳しい監査にあたっては、1年を通して内部統制の整備を徹底して進めました。財務的観点にとどまらず、顧問法律事務所に当社のガバナンスおよびコンプライアンス体制のレビューを依頼し、必要な要素の補強に取り組みました。

2023年12月に実施したリファイナンスは非銀行系からの融資に頼ったものでしたが、2024年12月に明らかな不備の改修に一つの区切りをつけたのち、2025年3月には、みずほ銀行からの無担保・無保証での融資により本格的なリファイナンスを実行いたしました。みずほ銀行の方からは「社会の何に貢献しているビジネスなのかを見て判断する」という言葉をいただきました。当社が企業の寮・社宅として部屋を提供することで地域の雇用の柱となり、地方創生を支えていることを評価いただいたものでした。

2025年3月期のこの一連の動きは、当社のガバナンス、コンプライアンスの進展が形となったものでもあり、当社の将来を支える基盤づくりとして非常に大きな意味があると考えています。

当期の経営成績の概況
(単位:百万円)
前連結会計年度
(2024年3月期)
当連結会計年度
(2025年3月期)
増減額 増減率
売上高 422,671 431,831 +9,159 +2.2%
売上原価 353,836 354,537 +700 +0.2%
売上総利益(売上総利益率) 68,835(16.3%) 77,293(17.9%) +8,458 +12.3%(+1.6p)
販売費及び一般管理費 45,521 48,062 +2,541 +5.6%
営業利益(営業利益率) 23,313(5.5%) 29,231(6.8%) +5,917 +25.4%(+1.3p)
EBITDA(営業利益+減価償却費) 27,974 32,734 +4,759 +17.0%
経常利益 19,476 26,936 +7,459 +38.3%
当期純利益 42,062 17,861 △24,200 △57.5%
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株主還元と配当

株主還元
経営における最優先課題の一つであり、中期経営計画においては、2028年3月期の配当性向を、現在の17.8%からほぼ倍増させた30%を目指します。配当利回りは約1.7%と、決して高くはない数字ですが、まずは配当性向の30%以上への引き上げを、期日を設けて確実に実現していきます。
2025年5月に行った自己株式TOBは、株主の皆様に対する責任という意味でも、将来的に発生が避けられない大規模なダイリューションを回避する目的がありました。リファイナンスも、このTOBを前提にしたものです。当時、当社には借入金を返済できるだけの手元資金があり、リファイナンスは不要だという声もありました。しかし、リファイナンスにより財源規制内で最大限の金額と手元資金が折り合う金額になることが予測されており、リファイナンスは不可欠であると判断しました。
配当と株価
今期はダイリューション防止に多額の資本を費やしたため、配当は10円とさせていただき、今後、2028年3月期の配当性向30%という目標に一歩一歩近づけていきます。
2025年3月期の株価は、変動が大きかった2024年3月期と異なり、堅調に推移しました。今後も今の株価以上の評価をいただけるよう、企業価値を高めていきます。

2025年3月期の
キャッシュ・フロー

期初にはEBITDAで約300億円超を見込んでいましたが、想定を上回る327億円で着地しました。賃貸事業ではプライシング戦略により売上高を引き上げることができ、安定したキャッシュ・フローを生み出すベースを創出できました。今後はこの資金を、株主還元はもちろん、我が社の再成長の要である開発事業にも振り向けていきます。また、資本構成の見直しも進めていきます。

数年にわたって投資を控えてきたため、減価償却費も縮小し、当社の財務構造は「筋肉質」と言える状態になっています。今後はコンプライアンスやガバナンスの観点からのリスク感度を一層高めながら、適切な投資を行い、資金の循環を生み出していきたいと考えます。新規事業も含め、ようやく流動性のある投資を考えられるステージに入ったといえ、その意味でも2025年3月期は「次の成長への土台を築いた年」として位置づけられるものでありました。

キャッシュ・フロー関連指標の推移
2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
自己資本比率(%) △5.3 0.7 14.5 31.2 37.5
時価ベースの自己資本比率(%) 31.1 45.7 70.5 80.1 85.6
キャッシュ・フロー対有利子負債比率(年) 3.0 1.4 1.2
インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍) 2.4 5.2 14.9
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主要な経営課題

施工不備問題
2024年末で明らかな不備は98%解消され、現在は特定行政庁、オーナー様、入居者様と調整をしながら、
残された不備の解消を進めています。
財務体質
上述の通り、TOBによって大規模なダイリューションを防ぐ決断をし、あわせて財務体質の立て直しに着手しています。今後1年半程度で、資本構成をTOB直前の水準近くまで回復できると考えています。
DX推進
DXによる「ヒト・モノ・カネ」の配分最適化も経営課題の一つです。賃貸事業はまもなく、あらゆる物件で部屋探しから契約までがスマートフォン一つで完結する時代が到来します。私たちはいち早くその実現に向けて仕組みを構築していますが、賃貸部門では現在約600名のスタッフが窓口業務を行っています。DX推進により、こうした人材をより付加価値の高い領域にシフトさせることが可能となるでしょう。
現地対応が求められる賃貸管理部門は、労働集約性が高い領域です。セキュリティ強化の観点から管理物件に防犯カメラなどを設置しておりますが、今後はこれらを用いて遠隔確認も一部で行い、特に顧客対応の部分でDX化を進め、業務効率を高めていきます。
プライシング戦略の価格設定の部分でもAIを活用した仕組みを構築し、さらなる省力化と価格設定の高精度化を図っていく予定です。
こうした取り組みなどを通じて生産性を向上させ、1人当たりの営業利益を現在の約750万円から将来的に1,000万円規模に早期に高めていきたいと考えています。

開発事業の本格再開

2026年3月期に当社は、従来の「請負事業部」という名称を「開発事業部」へと改め、既存アパートの建替えを中心とした開発事業を本格再開しました。10年~15年先の需要構造の変化を見据え、管理物件のポートフォリオの再構築に取り組んでいきます。

社内で時期尚早の声もある中で本格再開を決断した理由の一つは、オーナー様からのニーズの強さです。当社は一括借上げによるサブリース方式の先駆者として、1995年頃から多くの物件を提供してきました。スタートの早さゆえに、すでに建替え時期を迎えている物件も相当数存在します。資材や構造がしっかりしている建物についてはメンテナンスを施し、資産価値の維持に努めていますが、中には相続などの事情により、早期の建替えを希望されるオーナー様もいらっしゃいます。施工不備問題でご心配をおかけしたものの、当社のシステムなどは評価いただけており、これまで多くの建替えのご要望が寄せられているという現状がありました。

これまで建替えは基本的に請負でしたが、再開にあたり、権利関係が複雑で請負が困難な土地については、当社が土地自体を取得して開発し、その後売却するという新しい手法も採用します。需要のある土地で供給する部屋を確保し、ポートフォリオを最適化するためには、このような自社開発の手法も必要だと判断しています。賃貸事業において新築物件のニーズは非常に強く、建替えを進めることは賃貸事業の強化につながります。

初年度の計画は約80棟、受注額にして約100億円です。社内の施工管理体制や協力工務店との連携体制を最重要視し、強化しながら、2028年3月期には約250棟、320億円規模に拡大し、さらに5年後には2018年当時の約500億円規模に戻すことを計画しています。

また、社内の建築技術部門と、コンプライアンス推進部門内の建築法務チームによる多重チェック体制を敷き、さらに外部監査機関によるチェックも行って、建築の品質管理と法令遵守を徹底しています。

経営指標の見通しと
成長シナリオ

賃貸事業においては物件の老朽化を避けることはできません。持続可能な成長を実現するためには、開発事業と両輪で収益を最大化していくビジネスモデルの構築が重要です。

開発事業においては高利益率を目指した時期もありましたが、今後は過去と同等の利益率を求めることは難しくなります。しかし、当社の場合は、建設による短期的利益だけでなく、新たに供給される物件による賃貸事業での長期的収益も併せて考えることができます。今後は開発・賃貸・管理による三位一体の効果をシミュレーションしながら、トータルで適正な循環ができる体制を構築していきます。

2026年3月期には4,414億円の売上を目指し、中期経営計画の最終年度である2028年3月期に、4,680億円の売上と433億円のEBITDAの達成を目指します。

2026年3月期の連結業績予想
(%表示は、通期は対前期、四半期は対前年同四半期増減率)
売上高 経常利益 当期純利益 1株当たり当期純利益
百万円 % 百万円 % 百万円 % 円銭
第2四半期(累計) 219,500 1.5 17,100 2.2 3,400 △67.9 9.89
通期 441,400 2.2 30,900 14.7 11,600 △35.1 35.06
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2つのリブランディング

当社のリブランディングには2つの柱があります。1つは「社員が主役」というコンセプトで始めた社内ブランディングです。社員自らがMVVCを策定し、現在は新たな価値観の浸透を図っているところです。「社員が主役」といっても、単に社員にスポットライトを当てるということではありません。社員一人ひとりが自律的に行動し、結果などにも責任を負う、"全員が経営者になる"という考え方に基づいた、厳しさが求められるコンセプトです。

これを実現するには人材を磨き上げていく必要があります。コンプライアンス、ガバナンス面では改善が進んでいますが、引き続き「誰が正しいかではなく、何が正しいかで判断する」を徹底して、公正に事業を進めていくことが重要だと考えています。若手にチャンスを与えることは当社の持続可能性に直結することでもあり、意欲ある人材、若くても能力のある人材にポジションを用意し、自らチャレンジできる機運を醸成していきます。

もう1つは、レオパレス21というブランドを対外的に再確立し、強化していくことです。
「はじまりの部屋を、ひとは一生おぼえている。」
この当社のメッセージの通り、誰でも、初めて親元を離れてひとり暮らしを始めた部屋の印象は、強く心に残っているでしょう。その部屋にいる日々には希望が詰まっており、私たちはそのような希望に満ちた人生の始まりを応援する空間を提供している会社です。そして多くの企業の寮・社宅として地域の雇用の柱となり、地方創生を支える、社会インフラを担う企業であることを、今後はさらに社内外に打ち出していきます。

ご心配をおかけした当社が結果として存続でき、経済的資本を充足させつつある現状は、このような当社の社会的役割を評価いただけたからこそと考えています。この社会的評価を積み上げ、価値ある企業として社会に存在し続けることで、当社はさらに成長していけると考えています。